ビデオ起稿者: ロリ A. エレイ, RN RSD/CRPSに苦しむ医師の妻で、 RSD/CRPSの研究や治療の支援に熱心 | 小児のRSD
| サラ・ヤングさん
| サラ・ヤングさん: 私、普通のティーンエイジャーになりたい。
テレビニュースの語り手: 17歳のサラ・ヤングさんの反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)との闘いは、彼女がソフトボールを当てられた時から始まりました。
| サラさんのお母さん
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サラさんのお母さん: 娘が何の病気か分かるまで時間がかかりました。それまで何人もの医師に診察してもらいましたが、病名の診断がつかず、手がかりも見つけてくれませんでした。サラの脚を切断するよう言われたことも2、3回ありました。それほどサラの脚は青白く、氷のように冷たかったのです。
テレビニュースの語り手: RSDは体に何らかの損傷を受けた後に発症します。通常、交感神経というのは緊急時に体が反応できるよう準備をしているのですが、RSD患者さんにおいては、神経の誤った発火が起こり、継続的に痛みの信号を脳に送ってしまうのです。
カークパトリック博士: 原因となる損傷がRSDを引き起こす発症のメカニズムはまだ解明されていません。次のアニメーションは、比較的軽度の損傷からどのようにしてRSDが引き起こされるか、その仮説を簡潔にまとめたものです。外傷を受けた後に起こる交感神経系の活性化は、緊急事態に対する恐怖-逃避反応の一部です。この反応は、生きていく上で大変重要です。
例えば、外傷に伴う交感神経の発火は、皮膚組織の血管を収縮させ、筋肉や生命維持に必要な内部器官への血液循環を促進させます。その結果、受傷者は立ち上がって危険から逃れる為に筋肉を使うことができるのです。また、皮膚組織の血流量が減れば、出血を抑えることができます。このようにして損傷後の皮膚組織は、炎症による赤色から血流減少による青色へと変色するのです。さらに、交感神経系の活性化は代謝の亢進と発熱をもたらすため、体を冷やすための発汗作用が増強されます。通常、交感神経系の活性化は損傷後、数分から数時間で治まります。交感神経系は、損傷箇所だけでなく、体の他の部分のコントロールにも影響します。RSDの初期段階では局所及び中枢のコントロールが失われ、損傷箇所や体の他の部分の血流量が増加します。理由はわかりませんが、RSDを発症した患者さんでは交感神経系が異常な機能を呈するようです。交感神経の反応が、痛みに関わる神経線維の受容体を直接刺激して、痛みを引き起こすものと思われます。この受容体の刺激が新たな痛みを生みだし、交感神経系に更に刺激を与えて痛みの悪循環を引き起こすのだと考えられています。このように時間が経つにつれ、交感神経系の異常機能が直接原因となって様々な変化が現れてきます。様々な変化とは、皮膚温の変化、赤か青みがかった色への皮膚色の変化、発汗量の変化、皮膚の鳥肌や起毛、そして腫れなどです。たいていのRSD患者さんは、受けた損傷の程度から予想される以上の痛みを感じます。このような患者さんには、RSDの初期段階で腫れや皮膚の変色がみられます。
客観的症状 カークパトリック博士: RSDに時々見られる客観症状について、覚えておくべき大事な事柄が2つあります。ひとつ目は、特に初期段階のRSD患者さんにおいて、これらRSDの客観症状が一つも観察されないかもしれないということです。ふたつ目は、これらの客観的症状は変わりやすく、現れたり消えたりするということです。
運動障害 こうした交感神経系の異常な変化によって、痛みの信号が継続的に脳に送られてしまう患者さんもいます。交感神経系の異常機能は、運動障害をも引き起こします。痛みだけが患者の運動障害の理由ではありません。患者さんは、筋肉が硬く感じられ初期動作が困難だと訴えます。
交感神経付近に局所麻酔剤を注射する交感神経ブロックが、この異常な交感神経機能が改善した状態を延長させうる場合があります。その結果、運動能力を回復させたり、痛みの緩和された状態を持続させたりするのですが、私達はこの種の痛みを交感神経依存性疼痛(Sympathetically Maintained Pain: SMP)と呼んでいます。これとは別に、一連の交感神経ブロック治療の後に痛みが再発する場合があります。このような場合、特定の交感神経だけを選択的に破壊することで、痛みの永久的な改善と運動能力の回復が可能かもしれません。このような特定の交感神経の選択的な破壊を、交感神経切除術と呼んでいます。
RSD患者さんの中には、交感神経ブロックを行っても、ほとんどあるいは全く痛みが軽減しない方がいます。私達はこうした痛みを、交感神経非依存性疼痛(Sympathetically Independent Pain: SIP)と呼んでいます。これらの患者さんは交感神経が関与していないにもかかわらず、上述した交感神経の異常機能がもたらす症状すべてを示すことがあります。
RSDは時間の経過と共に進行するため、治療が施されていない場合は特に、徐々に交感神経非依存性になって交感神経ブロックが効果を示さなくなります。それ故、早期のRSD診断と治療が重要なのです。しかし、一生を通じて交感神経依存性疼痛を示すRSD患者さんもおり、このような患者さんでは交感神経ブロックへの反応性が維持されます。
| RSDは全身に広がる |
患者さんによってはRSDの症状が体の一部位に局在し続けることがあります。一方で、症状が自然にあるいは損傷によって体の他の部位に広がっていく患者さんもいます。
例:この図では、RSDが反対側の上肢、そして下肢へと自然に広がっています。上肢のRSDは顔面にも広がり、視力と聴力に問題を引き起こす場合があります。さらに、上肢のRSDは時として食べ物を飲み込む事を困難にさせます。下肢のRSDは腸や膀胱の疾患を引き起こします。このようにして、この病気に対する理解が深まるにつれ、「全身性RSD」という用語が徐々に使われるようになりました。
小児の患者さんにおいて特に考慮すべき事項 男性の語り手: 小児の患者さんには特有の難問も生じます。例:子供達は、RSDによる痛みや苦しみに対処するのに必要な、心理社会的な能力が発達するための時間を十分に過ごしてきていないのです。その上、一般に子供達は大人がそうである以上に注射を恐がります。注射は交感神経ブロックを施す上で基本的な道具です。子供達のこうした不安と恐怖は疼痛閾値を低下させ、神経ブロックや他の医療処置をより痛いものと感じるようになります。
子供達にとってもう一つの心配事は美容上の問題です。子供達は外科手術による傷跡をとても心配している場合があります。こうした心配事は子供とその家族に大きな混乱と不満をもたらします。
小児のRSDの発症率について大規模な研究は行われていませんが、幾つかの推察がなされています。症例報告によって、RSDの発症率は9-11歳の間に劇的に増加し、特に女児において顕著であることが示されています。
このビデオに登場する子供達の声を通して、私達はRSDについて多くを学ぶことでしょう。ビデオに登場する二人の子供は、典型的なRSDの小児患者さんです。二人とも女の子で、共に10歳から14歳までの年齢です。二人が選ばれた理由として、もう一つ大事なことがあります。二人の症状は、全てのRSDが同様では無いことを例証しているのです。この疾患の病状は様々な経過をたどり、治療への反応も多様です。このようにRSDが多様であることは、RSDに幾つかの異なる亜集団があるのでないかという推察をも起こさせます。
このビデオテープはアンソニー・カークパトリック博士とデニス・バンディック博士の監修の下で作製されました。それでは、次のような状況が起こったと考えてみて下さい:
| レイシー・ブースさん
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10歳の女の子が左足首を捻挫しています。最初、痛いのはその子の左足首だけでしたが、数週間後には左下肢全体に広がっていきました。女の子は、痛みに伴う脚の冷感、肌が白っぽい色から赤みがかった色に変色していること、左下肢の発汗量が増していることを訴えました。更に女の子は、左下肢の患部の感受性が高まって、軽く触れただけでも痛みを感じると訴えていました。
この患者さんは、小児科、整形外科、リウマチ科、そして神経科で診察を受けましたが、病名がわからないままでした。南フロリダ大学で検査を受けた時、肌に軽く触れたり、なでるだけで痛みを引き起こし、彼女は左下肢で体重を支えることができませんでした。
| レイシーさんは車いすの使用を 余儀なくされた
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その女の子は車いすを使用せざるを得なくなりました。携帯型赤外線吸収測定装置を用いたところ、女の子の左下肢は右下肢より2℃も皮膚温度が低いことがわかりました。
これまでに報告されたデータや専門医の見解によると、1-3回の交感神経ブロック療法はRSDの進行を抑制する可能性があります。患者が痛みで動けない段階になったら、すぐさま交感神経ブロックを施行する必要があります。この女の子の場合、左下肢で体重を支えることが出来ず、車いすの使用を余儀なくされていました。痛み止めの服用、積極的な理学療法、及び痛みにより対処できるようになるための心理学的療法の施行にもかかわらず、この女の子の症状は徐々に悪化していきました。
この女の子は約1週間の間隔で3回の腰部交感神経ブロックの治療を受けました。けれどもわずかな改善しかみられませんでした。そこで、女の子の治療法の選択について話し合う為に、家族や本人と医師による話し合いの場が設けられました。その話し合いでは、最終的にRSDをほぼ完治させた、ある治療法が勧められました。
先頃、カークパトリック博士は経過報告のために母親と女の子に面会しました。この面会はスタジオで録画されたものではありません。実際、カークパトリック博士はただ彼の机の隅にカメラを設置し、録画を始めただけです。このインタビューの録画技術には質的に欠ける部分がありますが、母親と女の子の自然で率直な受け答えによって十分に補われています。
(インタビュー開始)
カークパトリック博士: 一連の神経ブロックを終えた後、私のオフィスで話し合いをしたんだが覚えているかね?
レイシーさん: ええ。
カークパトリック博士: 覚えてるんだね。
レイシーさん: あの時、ママが鍵をなくしたわ。
レイシーさんのお母さん: そう、鍵をなくしました。
カークパトリック博士: そうだよ! 良く覚えていたね。君は物覚えがいいね。その通りだよ。じゃあ、話し合いのことはどうだろう? 私は特に何を言ってたかな? あの時、君に伝えようとしていたのは何だっただろう? 覚えているかい?
レイシーさん: いいえ、覚えていません。
カークパトリック博士: 覚えてないかい? そうか。まずひとつは、君の交感神経ブロックへの反応については、お母さんに特に伝えるような反応は何もなかったということだったね。君は良くなっているようにも見えたんだけど、本当にそうだと確信は持てなかったし、だから治療が効いたかどうかは考えない方がいいと…、正直に言ってしまえば神経ブロックへの君の反応はあまり良くなかったよね。
(レイシーさんはうなずく)
それから、あの時点でとても大事なことを私は提案したんだけれど、忘れたかな、何をやってみようと言ったのかな? 病気をよくするためのいろんなこと…、覚えているかね?
| RSDについて話すレイシーさんとお母さん |
レイシーさん: 先生は理学療法について何か言ったわ。
カークパトリック博士: その通り。
レイシーさん: 注射についても何か言ったわ。
カークパトリック博士: そうだね。理学療法について何て言ったかな? 覚えているかい?
レイシーさん: 私が歩き始めることが必要かもしれないって。
カークパトリック博士: そうだったね。他には?
レイシーさん: 覚えてないわ。
カークパトリック博士: そうか、いいよ。君のママは覚えているかな。(レイシーさんのお母さんへの質問)私達がいくつか話し合ったのを覚えていますか?
レイシーさんのお母さん: 彼女をプールに連れて行くことについて話し合ったと思います。うーん…確かじゃないですけど。
カークパトリック博士: そうでしたね。私にとっても大切な話し合いだった。だって私は君に良くなって欲しかったからね。その時、私には君が良くなるためには何が必要となるかをわかっているという思いがあったんだよ。(レイシーさんのお母さんに対して)奥さんやご主人、そしてレイシーに言ったことを思い出したのですが、それはこういうことでした:君が脚に体重をかけるのをとてもいやがることは理解できる。とてもよくわかるし、ご両親にも理解してもらう必要がある。だって、RSDの痛みは、想像できるようなそんじょそこらの痛みじゃないからね。レイシーそうだよね?
レイシーさん: ええ。(首を縦に振る)
カークパトリック博士: 君が痛みを訴えている時、みんながそれを気遣うことが必要だとね。君のママは私がそう言ったのを覚えていらっしゃると思うよ。
レイシーさんのお母さん: はい。
カークパトリック博士: 君は大きな赤ん坊になっているわけでもなければ、だだをこねているわけでもない、本当に痛いんだと、それは誰も、特に子供は誰も経験し得ないような痛みなのだと。だから、動きたくなくってあたりまえだって、それで普通なんだよって言いましたね。脚に体重をかけないのが普通で、だって痛みを感じた時にはそうやって自分の体をかばうものだからね。そうだろう?
レイシーさん: (はいと、うなずく)
カークパトリック博士: もし、床の上の壊れたガラスを踏み続けたら、出血多量で死んじゃうよね? そうならないように、体を動かさないようにするのが普通だ。でも、そのことについて、私が言ったことを覚えているかね? 歩いてみようということについて…。
レイシーさん: そうしても君は傷つかないって。
カークパトリック博士: すばらしいね、レイシー。君は本当に記憶力が良い。本当に良く覚えているね。
レイシーさんのお母さん: 痛みを感じることは傷つくことではないと先生はおっしゃいました。
カークパトリック博士: そうでしたね、そう言いましたね。痛みを感じることは傷つくことではないと。しかし、痛む時に、強制されて動くのではいけないとも言いましたね、自分からそうしないといけないと。君はそれを理解しなければならないけど、でも難しいよね?どう? 正直に答えてごらん?
レイシーさん: (首を横に振る)
カークパトリック博士: 簡単じゃないよね?
レイシーさん: ええ。
カークパトリック博士: 難しいよね…、特に子供にとっては。つまりね、私たちのような大人だったら理性を働かせてこんなふうに思うことができる、カークパトリック先生を信じよう、先生は傷つくことはないと言っている、骨を砕いたり、組織を破壊したりというようなことはないと。君のお母さんにならおそらくそう考えてもらえるように言えるけど、子供にそんなふうに考えろといえるかい? そうだろう? 子供には難しいよね。
レイシーさん: (はいとうなずき、微笑む)
カークパトリック博士: なぜなら、君は人生経験が豊富じゃない。せいぜい10年くらいのものだ。私のいうことがわかるね?
レイシーさん: (はいとうなずき、微笑む)
カークパトリック博士: だったら、君はどうしたのかな? つまり、明らかに君は何かをしたのだよね。君が動こうとし出したのはどんなふうだったの? 何があったのか教えてくれないか?
レイシーさん: そうね、えーっと。私がもし車いすを降りられなかったら、引っ越しましょうってママが言ったの。だって、私達の家にはほんとにたくさんの階段があって、車いすではとても不便だったから。だからプールで、私、プールで歩き始めたの。最初は歩けなかったけど、そのうち歩けるようになったわ。プールの中で、ママが私を支えながら一歩ずつ歩き始めたの。それから、パパと一緒にプールの中を歩いたわ。ある日私、松葉杖を離して歩こうとしたの、はじめは片足で、それからもう片方の足で。ひどすぎるほどじゃなかったけど、でもとても痛かったわ。それから、私はママに見せに行ったの。そして、私がママと一緒にいた時、何かをして脚をひどく痛めたの。ママ、覚えているよね?
レイシーさんのお母さん: ええ。(はいと、うなずく)
レイシーさん: ママはベッドにいたわ。ママはベッドの周りを歩き回っている私を見てたの。私はベッドの角にいて、歩こうとして、痛い!って。たぶん、軽く跳びはねたんだと思うわ、だって松葉杖で歩く時、私は跳ねるようにしていたから。だから私はちょっと跳ねてしまって本当に痛かったけれど、やり続けて、ゆっくりだけどとうとう歩けるようになったの。
カークパトリック博士: ゆっくりと?
レイシーさん: ええ、小さくケンケン飛びをするようにね。それからもう少し大きく足を踏み出すようになったの、だって自分に言ったわ、どうしてケンケン跳びのように歩くの? たどり着くのに時間がかかるし、横になるのにも時間がかかるのにって。だから、私は歩幅を大きくして歩いてみて、でもそんなに痛くなかったわ。
カークパトリック博士: なるほど。
レイシーさん: こんなふうに歩き出したの。
カークパトリック博士: 大体どれくらい前の事なの?君がそのケンケン飛びをしていたのはどれぐらい前のこと?…だって今日はケンケン跳びをするところを見てないよ。ケンケン跳びをするところを見たことがないな。君がケンケン跳びをしていたのは大体どれぐらい前の事だったか言ってごらん。
レイシーさん: う〜ん。分からないわ。
レイシーさんのお母さん: 7月だったわ。
カークパトリック博士: 7月?
レイシーさんのお母さん: ええ。(はいと、うなずく)
カークパトリック博士: つまり、今10月だから、私達が話しているのは…だいたい3ヶ月前のこと?
レイシーさん: (首を縦にふる)
カークパトリック博士: だったらその時からずいぶん良くなったんだね。じゃあね、これについてはどうだろう。え〜とね、最近君がしていることについて教えてくれないかな。身体的にとても難しいことに君が挑戦してるって聞いたのだけど、本当かい?
レイシーさん: (はいとうなずく)
カークパトリック博士: 言ってごらん。
レイシーさん: あのね、私とママはよく自転車に乗っているの。
カークパトリック博士: 君が…君が自転車によく乗るのかい?
| すっかり回復したレイシーさん
|
レイシーさん: 近くに長い土の道路があって大きな丘に続いているのだけど、止まらないで丘を登りきる事が出来るのは、今は私だけなの、だから…それから友達とよく走ったりもするわ。ガールスカウトにも入っているし。ガールスカウトでは時々走ったり、跳んだりすることがあって、そういったことをいろいろと。
カークパトリック博士: ふ〜ん。
レイシーさん: それから…。
レイシーさんのお母さん: 縄跳び。
レイシーさん: よく縄跳びもするわ。
カークパトリック博士: 本当に?すごいね。
(インタビュー終了)
カークパトリック博士: レイシーの場合、一連の交感神経ブロックがどれほど回復に寄与したのか、また彼女の受けた心理学的な治療がどれだけ影響したのか正確に知ることは困難です。痛みを感じることは傷つくことではないという格言はとても大切な原則ですが、この原則はつぎの事柄とともに心にとどめておくべきです。
まず、RSDの治療に不可欠なのは、通常の動作ができるようになることです。患者さんはできるだけ患部の手足を動かす必要があります。
次に、理学療法士はしばしばRSD患者さんに受け身的な療法を施し、鋭い痛みのために失敗に終わったり、更なる損傷をひき起こしてしまう場合さえあります。
第3に、気にする必要のない痛みを見分けるには、時間がかかります。
第4に、患肢を使うように勧めることは、危険で、痛みが増す原因になることもありますが、一方で新たな損傷を避けることは不可欠なことです。
レイシーのような、交感神経ブロックの効果が最小限であった場合と対照的に、次の子供の場合は、小児のRSD患者さんのリハビリテーションにおいて交感神経ブロック療法がいかに決定的であるかを示しています。
(二人目の症例、アマンダさん)
あなたのお子さんが体操の全国チャンピオンで、一流大学への奨学金も提供されていたのに、10才で、体操の事故が起こって、全てが音を立てて壊れてしまったと想像してみて下さい。それがアマンダさんの場合です。
アマンダさんは初め、彼女の右手首に、ある損傷を受けました。それは手首の軽い捻挫でした。RSDは彼女の腕から肩にまで広がり、彼女は一連の交感神経ブロックを必要としました。残念ながら、交感神経ブロックによって痛みを完全に取り除くまでには至りませんでした。それ故、彼女は右上腕部の交感神経切除術を受けなければなりませんでした。その後、この患者さんは左足首を軽く捻挫しました。再び、症状は脚からお尻の部分に同じように広がっていきました。
一連の交感神経ブロックが行われましたが、またしても痛みを完全に取り除くことができず、同じように左下肢に交感神経切除術を受けなければなりませんでした。
さらに、最近その患者さんは右脚を痛め、一連の交感神経ブロックを必要としました。現在、この患者さんは右下肢の可動性を維持するため、これらの交感神経ブロックを受けています。
(神経の解剖学的説明)
| 神経ブロックについて説明する アンソニー・カークパトリック博士
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カークパトリック博士: 上腕への交感神経ブロックを行うには、星状神経節と呼ばれる、実際には胸部に存在する神経をブロックするために、首の近くに注射をする必要があります。下肢に対しては、交感神経はやはり背骨に沿って存在するので、背中に注射する必要があり、それが下に伝わってちょうどこの位置で神経をブロックします。大切なことですが、これらの小さな赤い点によって示される交感神経と、感じたり動いたりするための感覚、運動神経は別のものだということを認識しなければなりません。別のものであるが故に、感覚、運動神経をブロックすることなく、交感神経をブロックする事ができるのです。従って、交感神経ブロック後、患者さんは単に手足が暖かくなる感じがするだけで動作やものを感じる能力に何の変化も起こりません。
(交感神経切除術の説明)
カークパトリック博士: 一連の交感神経ブロックを行っても、患者さんの痛みを永続的に取り除くには充分でない場合がしばしばあります。このような場合、永久的なブロックつまり交感神経切除術が必要です。上肢の場合、スコープを肋骨の間に入れ、脊柱に沿って神経を見つけて、それを取り除きます。下肢の場合は2つの方法があります。体内に注射針を刺し、フェノールと呼ばれる化学物質で神経を破壊する方法と外科的に、患者さんの体にメスを入れ、実際に神経を取り除く切除術です。
子供たちに対して特に考慮しなければならないもう一つの問題は、神経ブロックに対する不安です。このインタビューの中で、アマンダは静脈内鎮静法と神経ブロックの経験を話しています。子供たちに交感神経ブロックが行われる時には、たいてい鎮静剤が投与されます。ミダゾラムとプロポフォールの配合剤は、不安を取り除くためにうまく使用されています。ただ、治療中に子供たちが動くことを防ぐためには、これらの薬をより多く投与する必要があります。これは子供達に二日酔いのような不快感を与えます。私達はケタミンを少量加えて首尾よく鎮静効果を高めることで、プロポフォールとミダゾラムの必要量を減らし、その結果、二日酔い様の感覚を防ぐことができるようになりました。さらに最近の研究によって、ケタミンを少量使うと実際に呼吸効果が増し、多量の鎮静剤を使用する際の安全幅が広がることが明らかになりました。
では、神経ブロックと鎮静剤についての経験をアマンダから聞いてみましょう。
(鎮静処置と神経ブロックについてアマンダへのインタビューが始まる)
カークパトリック博士: さて、子供たちの場合に問題になるのは、そう、また子供たちの話なのだけど、一つは恐れだね、治療を受ける恐さ、そして君は何回も何回も神経ブロックを受けてきた。つまり、全部合わせたらすごい回数になるよね。もし君が、50回も60回も受けたって言えば、そんなにはしなかったけど、つまり、そんなふうに感じるのだろうね。上肢と下肢への神経ブロックや交感神経切除術をたくさん受けてきたと。
アマンダさん: はい。
| RSDについて話す アマンダ・アルベルジさんとお母さん |
アマンダさんのお母さん: ええ、その通りです。
カークパトリック博士: 君に対しては、これまでたくさんの治療を続けてきた。聞きたいのだけど、神経ブロックは怖いかい?
アマンダさん: いいえ。最初は多分、怖かったけど、でも…。
カークパトリック博士: そのうちに…。
アマンダさん: 先生を信じてるもの。
カークパトリック博士: 私たちに話してくれないかな、信じていると言う事じゃないよ、神経ブロックについてだよ。私たちは君を治療する時、薬を使うよね。でも単独で使うわけじゃなくて鎮静剤と一緒に使用する、そうだよね?
アマンダさん: ええ。
カークパトリック博士: ベルセド、ミダゾラム…。
アマンダさんのお母さん: ベルセドです。
カークパトリック博士: それから、ケタミンを使用している。ケタミンを使うのは、それが君の呼吸の手助けをするからなんだ。子供や若い人たちにはたくさんの酸素が必要なんだよ。つまりね、彼らはバンバン酸素を燃やしてね、もし酸素がなくなったら、あっという間に青ざめてしまう。分かるだろう? だから、ケタミンという薬を使うんだよ。それでね、私たちが君にケタミンを投与した時、何かあったかな、え〜っと、例えば、夢を見る人もいるし、見ない人もいるし。君は今までに、ケタミンで夢を見たことがあるかい?
アマンダさん: いいえ。
カークパトリック博士: 君は今までに何か、う〜ん、たとえば、夢じゃなくても色が浮かぶような不思議な感じとか、そんな感じがしたことを思い出すかな?ないかな?
アマンダさん: ないわ。
カークパトリック博士: ない? 完全に眠ってた?
アマンダさん: ノックダウン状態よ。
カークパトリック博士: はは、ノックダウンか。
(鎮静剤と神経ブロックについての話し合いが終わる)
カークパトリック博士: ケタミンは、決して単独で使用されるべきではないということを強調しなければなりません。他の鎮静剤と共に使用すべきなのです。さもなければ、その子供はとても不快な状態で目覚めるでしょう。静脈注射は処置室以外の場所で行われるべきです。処置室はとても恐ろしく感じる部屋です。その上、両親が注射を恐がったら、子供の恐怖も自然と大きくなるでしょう。それゆえ、注射をするときは、両親が付き添わない方が良いかもしれません。
美容、つまり外科手術後の手術痕は子供たちにとってもう1つの重要な関心事です。アマンダはインタビューの中で、このことについて発言しています。
(美容と手術痕についてアマンダさんのインタビューが始まる)
カークパトリック博士: 別の話をしよう、君にしか、おそらく私が見てきた他の誰よりも君が、たぶん子供たちが抱えている問題について教えてくれると思うのだけど。それは何かというと、君は結局…、フェノールが十分に長くは効かなかった後で…、最後には外科手術、外科的交感神経切除術を受けることになったよね。そして、もちろん、若い人は傷跡を気にして当然だ。だって、ほらビキニだって着るだろうし、そういったことだよ。
アマンダさん: (首を縦にふる)
カークパトリック博士: じゃあ、アマンダ、そのことについて話してくれないか。
アマンダさん: 私の…ん〜、傷跡は全く気にならないの。そこに傷跡があることさえ時々忘れているくらいなの。胸の管のやつ以外は、そう、腕の下の傷跡はとても良く治っているわ。管の傷跡は今でもあるんだけど、でも…。
カークパトリック博士: 今でもあるの?
アマンダさん: …別にわずらわしくないわ。
カークパトリック博士: たとえば君が見た目を気にするとしよう。君や他の子供の場合だったら、表面上少し隠す方法がきっとあると思うよ。聞いた話では、もちろん私は専門家ではないけれど、聞いたところでは、例えば女性が胸に豊胸手術を受けたときなどは、小さなパッチ剤を傷跡の上に貼るらしいよ。
アマンダさん: ん〜、それは今までの私の人生の中で一番痛い事だったわ。
アマンダさんのお母さん: 私達はそれを試してみたんです。
カークパトリック博士: ああ、やってみたのですか。そうですか。
アマンダさん: もうしないわ。
カークパトリック博士: 教えてくれないか。どうだったの?
アマンダさん: 胸の管の傷跡にそれをやって、とっても痛かったの。
カークパトリック博士: え、痛かったのかい?本当に?
アマンダさん: それをはがす時に、痛いんです。ほんとに痛いのよ!
カークパトリック博士: なるほど、つまり、何時間かそれを貼って…。
アマンダさん: そうよ。24時間。
アマンダさんのお母さん: そうなんです。それは貼付剤で24時間貼った後、はがさなければならないんです。膨らみと色は確かにましになったんですけど…胸に盛り上がった傷跡だったものですから…でも内側から治癒しだしたので、それで盛り上がったんです。娘のお腹の上にある傷跡には、そこはまだとても敏感なんですが、そこには貼ろうともしていません。でも、娘は夏の昼間に外に出るときは、ビタミンEを飲んで、指数50の日焼け止めを使っています。
アマンダさん: 私は傷跡を見せているわ。
アマンダさんのお母さん: …娘は傷跡を隠していません。気にしていないのです。
カークパトリック博士: ええ、そのようですね…。私は一度もこの方法を見たことがないので理解できるかどうか解りませんが、これは何なのでしょうね。
アマンダさん: シリコンパッチっていうの。
カークパトリック博士: そう呼ばれているの?シリコンパッチって?
アマンダさん: ええ。
カークパトリック博士: じゃあ、何か残るのかな、それを貼って…、それは24時間貼って、それからはがすのですよね? 皮膚に何か残りますか? そうなっているのですか?
アマンダさんのお母さん: 分かりません。
アマンダさん: 24時間ごとにそれを取り替えなければならないんです。
カークパトリック博士: 24時間ごとに?
アマンダさんとお母さん: はい、そうです。30日間取り替えます。
カークパトリック博士: つまり、傷跡を隠すために貼っておくパッチではなくて、それを取り外したあとに何か効果があるのですね?
アマンダさん: 傷跡をだんだんましにしていくの。
アマンダさんのお母さん: 傷跡を小さくするんです。
カークパトリック博士: ああ、傷跡を小さくするのですか。なるほど。でも、軽い気持ちで君がそれを試してみたら、剥がすときがとても痛かったと言ったよね。
アマンダさん: ええ。バンドエイドをはずす時の感じに似てるんだけど、その10倍も痛いの。
カークパトリック博士: 分かるよ。分かる。
アマンダさんのお母さん: というのも、パッチはこれぐらいの大きさ、5インチ×3インチぐらいの大きさなんです。
カークパトリック博士: なるほど。左脚の交感神経切除術は約14ヶ月前に行われたんですね…。
アマンダさん: 違うわ。
アマンダさんのお母さん: いいえ、違います。4月2日でした。
カークパトリック博士: 4月2日…。
アマンダさんのお母さん: 2001年4月2日です。7ヶ月前。
カークパトリック博士: 7ヶ月前ね。ね、私たちに見えるように傷跡を出せる?
アマンダさん: ええ。
アマンダさんのお母さん: おへそは見せちゃだめよ。
カークパトリック博士: ああ、そうだ。(ビデオカメラで)ちょっとクローズアップできるかやってみよう。これでよしっと。それが傷跡で、君が言ってたやつだね、パッチ剤を試してみた…。
アマンダさん: この傷跡にじゃありません。
アマンダさんのお母さん: そこはビタミンEと日焼け止めだけです。
カークパトリック博士: そうですか。立ち入り過ぎることのないようにして、他にあるかな…、他の傷跡を見せることができる?
アマンダさん: ここにあるわ。
カークパトリック博士: どれ、見てみよう。ひとつしかないね、3つ傷跡があるはずなのだが。
アマンダさん: 胸の下にひとつあるわ。
アマンダさんのお母さん: でも、殆どわからないわ。
カークパトリック博士: それは見せなくていいよ。
アマンダさんのお母さん: 殆ど見えないんです。
カークパトリック博士: 見分けることすらできないのだね。そこの部分を指で触ってみて。そこに一つ傷跡があるでしょう。拡大できるかやってみよう。近づいて、と。ちょっと待ってね。そこに一つある;その小さな傷跡だね。
アマンダさんのお母さん: 胸の管があったところです。
カークパトリック博士: 胸の管があったところ…。
アマンダさん: それから…、他の傷跡は見えないの…。
アマンダさんのお母さん: ええ、見えないわ…。
アマンダさん: 見つけることもできないわ。
アマンダさんのお母さん: ほんと…わからないわ。
カークパトリック博士: ということは、彼女には2つ傷跡が残っているだけだね。うん、それは興味深い。つまり、傷跡として残っているのは、実際には一つだけだね、あの…。
アマンダさん: お腹の上のやつ…。
カークパトリック博士: そうそう、お腹の上のやつ。それって大事なことなんだ、わかるだろう。つまり、傷跡が残るということを認めて、若い人にこう話してあげられる、「ねえ、もし君が外科的交感神経切除術を受けるなら、もう少し実際的な手術痕の問題も出てくるよって。」
アマンダさん: ええ。
カークパトリック博士: じゃあ次はこのことについて話してくれないか、だって君は(上肢と下肢の手術の)両方とも経験しているからね。傷の回復を振り返って、手術後、どちらが大変だった?
アマンダさん: 上半身の方。
カークパトリック博士: そうなの?どうして?
アマンダさん: だって、私は胸に管が入ったまま24時間集中治療室にいたの。
カークパトリック博士: 胸の管を入れたまま?
アマンダさん: 辛かったわ。
カークパトリック博士: 辛かったのかい?
アマンダさん: とっても辛かった。
カークパトリック博士: 痛み止めはもらえた?
アマンダさん: モルヒネをもらったんだけど、もうそれを飲むのはいやだったの。だから、私はタイレノールを飲んだわ。
カークパトリック博士: ふ〜ん、モルヒネは意識がぼんやりしたりするから? それが理由かな?
アマンダさん: いいえ、気分が悪くなるの。
カークパトリック博士: 吐き気をもよおしたりするのかい?
アマンダさん: ええ、そう。
カークパトリック博士: そうか、ふ〜む。でも、いやもちろん、脚の手術後の経過はみんな知っているよ。君は確か手術の次の日に退院したのだよね。
アマンダさん: はい。
カークパトリック博士: これはなかなか興味深いことだよ。なぜだかわかるかい?大人の場合はちがうんだよ。
アマンダさんのお母さん: そのことはバンディック博士がおっしゃってましたわ。「私の患者はたいてい4日間は帰宅できない」って。
カークパトリック博士: そうなのです。大人は、下肢より上肢の交感神経切除術を受けた時の方が、早く退院できます。そこがちがうのです。そして、とても重要な違いなのです。
アマンダさんのお母さん: 私達は上肢の手術の時は、5日間入院し、下肢の時は24時間以下でした。脚の方の手術を受けた日の夜には、彼女は立って歩いていました。
カークパトリック博士: そうでしたね。私が今ここでやってみようと思っているのはね、ほら、君の体から取り出したあの小さな虫のビデオがあるのです。
アマンダさんのお母さん: ええ。
カークパトリック博士: あのビデオをあなたに送りましたよね?
アマンダさんのお母さん: ええ、娘が持っています。
アマンダさん: 持ってるわ。
| アマンダさんの手術の様子が ビデオの一部になると知り、家族に笑いが
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カークパトリック博士: それを見られるように、セットしてみましょう。さて、母親の観点から見て、他に何か私達が見落としていることはありませんか?どう思われます?この経験を通して、何か大切なことはありますか?
アマンダさんのお母さん: 前向きに考え、強くなること。先生を信じること。だって、何が本当に正しいことか知っているのは先生たちだけですから。そして、もし彼女がどの決断にも納得できなかったら…、私はいつも決断には彼女を参加させました。なぜなら、それは…それは彼女の体だし、私ではなく彼女自身に起こっていることだからです。私には、これはきっとうまくいくからやってみましょうとは言えなかったし、彼女自身が決断するようにしました。大切なことだと思います、彼女にとって、おわかりでしょうが、子供でもそうすることが必要だと思います。でも、おっしゃるような傷跡の影響というものも患者は知っておかなければなりません。傷跡を残したくないなんて意味がないと思うか、痛みをかかえる方がいいと思うか、現状のままがまんするか、良くなりたいと思うか、どう決断するかですね。
カークパトリック博士: そうですね。
アマンダさんのお母さん: そして、これは良くなるための最善策だということを理解した上で、私たちは決めたんです、受ける治療に関して分別のある決断を下しました。
カークパトリック博士: それで、アマンダ、君はどう思う? お母さんの意見に賛成かい?
| アマンダさんの右上肢のRSDは 交感神経切除術によって治癒した
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アマンダさん: 賛成です。前向きに考えなくっちゃ、否定的に考えてはだめよ。
カークパトリック博士: そうだね。
アマンダさん: 否定的に考えてはいけないわ…(聞きとれない部分)
カークパトリック博士: そうだね。
(アマンダさんのインタビュー終了)
(バンディック博士が交感神経切除術の話をする)
| デニス・バンディック博士が交感神経 切除術の危険性、限界と可能性を説明
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バンディック博士: 痛みを制御するために交感神経切除術のような侵襲性の高い治療を施す場合、その利点は、伴う危険と照らし合わせて慎重に量られなければなりません。最近、私たちは南フロリダ大学で交感神経切除術を受けた多くのRSD患者さんに関する報告を行いました。この治療により、4分の3以上の患者さんに長期的な改善がみられました。けれども、その他の患者さんにおいては、大変注意深く交感神経切除術を選択したにもかかわらず、有意な長期的改善はみられませんでした。
そのうえ、子供の交感神経切除術について報告されたデータは殆どありません。ですから子供たちに交感神経切除術を施す場合、もっとたくさんのデータが報告されるまでは特に注意しなければなりません。
こうした侵襲性のある治療の実施は、経験豊富な医師によって判断されなければなりません。手術の結果起こりうることについて患者さんのインフォームド・コンセント(医者から説明を受けた上での承諾)が容易になされるよう、交感神経切除術を考える前に、子供には純粋な交感神経ブロックが提案されなければなりません。硬膜外ブロックは純粋な神経ブロックではありません。
侵襲性の高い治療を考える前に、家族には、より侵襲性の低い治療がすでに全部試されたことを確認するためのセカンドオピニオン(別の医師の意見)を受けることが勧められるべきです。アマンダさんの場合、四肢の数箇所にもわたるRSDの治療として交感神経ブロックを受けるたびに、一週間以内ですが学校を休まなくてはなりませんでした。鎮痛剤、積極的な理学療法、そして長期的な心理カウンセリングの全てが、彼女のRSD症状をコントロールすることはできませんでした。現在、彼女の右上肢と左下肢のRSDは、交感神経切除術によって両方とも完治したと思われます。
子供たちはいくつかのグループに分けられます。第一に、治療によって病気が完治したグループ。第二に、症状は改善したけれどもその後、高いRSD再発率を示したグループです。幸い、再発したRSDはそれぞれ、さほど重度ではないようです。第三に、これは比較的小さなグループですが、彼らは治療しても症状が悪化していき、交感神経切除術のような侵襲性の施術さえも必要とします。RSDの病状が最も重度なこの最後のグループの子供たちの場合、医師は手足の肌が青色から黒色に変色する、回復不能の組織障害を起こすまで、交感神経切除術を行う決断を引き延ばすかもしれません。
一旦、病気がこのような進行段階まで進んでしまうと、交感神経切除術を施しても皮膚の組織障害を改善することはできず、あるいは切断手術すら必要かもしれません。
そのような深刻な栄養障害性の変化がRSDの子供の組織に生じる前に、交感神経切除術を考慮すべきです。子供がこうしたより重度のRSDに至るかどうかを前もって予測することはたいていの場合困難であり、それゆえ、最良の結果を得るためには、小児のRSD患者さんの臨床経過を注意深く観察することが必要です。
最近は交感神経切除術の外科的技術が進歩し、傷跡が最小限ですむようになりました。例えば、一部の患者においては手術後に胸に管を差し込む必要がなくなっています。また現在、下肢の腰部交感神経切除術を行う際に腹腔鏡が同様に使用されています。
(バンディック博士の話が終わる)
(カークパトリック博士の話が始まる)
カークパトリック博士: 一部の小児RSD患者さんでは、保存治療で症状が改善します。実際に小児科の公表文献では、多くの子供が患肢への積極的な授動術と心理社会的療法のみで症状が改善するという考え方を支持しています。段階的な患肢の運動と体重移動を通じて子供を導き、注意すべき痛みと、気にする必要のない痛みとの違いを理解させるための、確立された方法があります。このビデオで紹介されているように、何人かの子供たちはプール運動で大きな効果をあげています。
ハーバード大学医学部による最近の研究によれば、子供がRSD発作後の小康状態にある時は、絶えず再発を警戒することが必要です。その研究では、40%までの小児RSD患者さんにRSD発作の再発がみられましたが、殆どの場合、その発作症状は初めより軽度でした。
いろいろな薬があることは子供たちそれぞれにとって有益なことですが、これら薬剤のほとんどに関して、RSDに見られるようなタイプの痛みに対する特異的効果を示した、総体的な見地の小児科文献はありません。ノルトリプチリンのような抗うつ剤を睡眠補助剤として用いることは、多くの患者さんにおいて有効かもしれません。ギャバペンチンのような抗けいれん剤も場合により効果的です。一部の患者さんは、発症初期段階でのプレドニゾンの短期使用に良好な反応を示していますが、その他の患者さんには効きません。子供たちに対して最も効果的な治療法を確定するための更なる研究が求められていることは、明らかです。
幾つかの症例の中でもう一つ重要な点は、小児RSD患者さんたちの多くがスポーツやダンス、体操に深く関わっていたということです。実際、体操の競技会を思い起こしてみても、この短いビデオクリップに出てくるような大怪我が想像されます。けれども、体操やそれによく似たスポーツをしていても、ほとんどの子供たちはRSDにならないということを強調しておかなければなりません。実際には、RSDは比較的些細な外傷からも発症し得るのです。
私達は、RSDについて私たちに多くのことを教えてくれたアマンダとレイシーの多大な貢献に対し、心より感謝したいと思います。
男性の語り手: このビデオの中で示されたいくつかのキーポイントは、強調に値します:
RSDの病態生理は確立されていません。このビデオの初めの部分にあるアニメーションは、何度見ても、RSDが外傷後にどのようにして引き起こされるかを単純化しすぎているようです。事実、この病気が交感神経系の反射に関わるものだという思い込みを避けるために、RSDをComplex Regional Pain Syndromeと呼ぶ人達もいます。このビデオにおける二つの小児症例は、治療への反応が多様であるのと同時に、この疾患が実に様々な臨床経過をたどることを示しています。RSDの治療では時間の重要性も強調されなければなりません。一晩で何かが変わることを期待してはなりません。子供が積極的に治療に取り組むことが重要です。
このビデオは、RSDと闘わなければならなかった二人の子供達についての症例報告であることを、強調しておかなければなりません。このビデオは、RSDの子供たちに施される治療法の包括的な検証を意図したものではありません。
このビデオでは、痛みの薬物療法、痛みの認識、及び行動的アプローチ法について、適正かつ簡単に説明されており、これらは大多数の小児RSD患者さんたちを救うための骨子となる部分です。
交感神経切除術については、少数の小児RSD患者さんにしか施せない脊髄刺激など、侵襲性治療法は他にもあります。患者さんには個人差がありますから、このビデオで述べられている情報を、RSD患者さんの個人的な健康問題の治療や診断に使うことはできませんし、すべきではありません。治療は医療の専門家によって個々に行われなければなりません。
| このビデオは、南フロリダ大学で行われた 国際シンポジウムで、専門家によって 詳細に検討された
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このビデオの30分版は、南フロリダ大学で行われたRSD/CRPS国際最新情報会議で紹介され、RSD専門家から成る国際専門委員会によって綿密な校閲を受けました。委員会からの助言を受け、このビデオはRSDの治療と診断についてより広範囲の内容を盛り込むため、40分間に延長されました。
RSDの診断と治療におけるガイドラインの全容についてお知りになりたい場合は、米国RSD協会と国際RSD/CRPS研究財団が公表し、インターネット上で英語、スペイン語、フランス語での閲覧が可能な、「RSDの臨床ガイドライン」を参照して下さい。これらガイドラインは、RSD学術顧問委員会が執筆致しました。
小児のRSDを綴ったこの概要が、皆さんにとって役立つものでありますように。 |
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